フラメンコとは…
フラメンコは、スペインの南部に位置するアンダルシア地方の伝統芸能です。
一般的に、スペイン全土で盛んに行われていると思われがちなフラメンコですが、
実はアンダルシアのいくつかの地域、街を中心に受け継がれてきた芸能で、
もともとは個々の家などのプライベートな空間で行われるのが主だったようです。
なので、驚くかもしれませんが、
フラメンコのことをほとんど知らないスペイン人もかなりいます。
さて、そんなフラメンコのルーツを辿ると、
ヒターノ(スペインのジプシー)抜きでは語れません。
彼らの祖先は、
遠くインドから中東やヨーロッパを経てスペインに入り、
最終的にアンダルシアに辿りついて彼らの音楽と
アンダルシアの音楽が影響しあってフラメンコの原型ができたとされています。
またアンダルシアは800年続いたイスラム支配で
アラブ文化の影響も強く受けいるので、
それがあのヨーロッパでもアジアでもない独特のリズムや
メロディーの元になっているのかもしれませんね。
そんなフラメンコの根幹をなすのは、
何と言ってもリズムです。
実は、4拍子と3拍子の組み合わせで全てのリズムができているんですが、
初めて聴くと「なんだ!?この複雑なリズムは?」
と思ってしまう絶妙な組み合わせ方です。
自分は初めてフラメンコを観た時に、
パルマ(手拍子)の刻む、今まで聴いたことのない
リズムのエネルギーに圧倒された経験があります。
フラメンコはよく『ギター、歌、踊りの三位一体』と言われるんですが、
この3つをつないでいるのは『コンパス』と呼ばれるリズムです。
そして、このコンパスを一番わかりやすく表しているのが、
パルマともう一つハレオと呼ばれるかけ声なんです。
一番有名なハレオはもちろん『オレ!』ですね!
フラメンコを知らなくてもこの『オレ!』は知ってるんじゃないでしょうか?
一見各々好き勝手にやっているように見える
ギタリストの奏法も、踊り手のステップも、歌い手の節回しも
全てこのコンパスを表現していてるので、
全てがピタッと合った瞬間には待ってましたとばかりに最高の『オレ!』がかかります。
この瞬間、演者も客席もなく、みんなが1つのコンパスを追っている感覚になるんです!
なんていう一体感なんだ!
遊びの中だろうが、舞台上だろうが、
コンパスの良し悪しに対してかかるこの『オレ!!』は、
アンダルシアに行くと日常生活の中でも聞くことができます。
バルでグイッとビールを飲み干してお代わり注文をした時、
おじさんが「やるじゃないか!」みたいな感じでオレ!!
朝方のゴミ清掃車のお兄さんが歌いながら作業してると、
通りがかった出勤中(?)の人がオレ〜!!
そんな何でもない瞬間にも「オレ!」を耳にするかもしれません。
そんな時に、フラメンコはアンダルシアの生活の中に自然にあるんだなと実感します。
そして生活の中での普段の仕草や表現が、
そのまま踊りの振りや歌の嘆き、歌詞になっています。
アンダルシアの街角ではそんな気取らないフラメンコが
自然発生しては消え、また生まれて、、、を繰り返しています。
そしてそういうフラメンコはほとんどの場合、歌とパルマ、それにハレオだけ。
盛り上がってきたら誰かが踊り出して、
そこにギターが火を点けたらもうお祭り騒ぎです!
衣装も、音響も照明もないフラメンコ。
そして、普段の生活の雰囲気が自然に表現されるからこそ、
現代の生活からも新しい表現が生まれます。
昔は、「馬の蹄の音」だったのが、「自動車の騒音」になったり、
「鐘がなる音」が「時計のチクタク」になったり。
それなのに同時に100年前の歌も(良い歌なら)大切に歌い継がれているのが面白い。
最初に書いたように、もともと家族の集まりなんかで歌い継がれてきたから、
「これは自分のお爺ちゃんの歌だ」なんていうのはざらにある話。
そのファミリーが大切にしている歌、そのストーリー、一族の歴史。
こんなある意味とても内輪で素朴なフラメンコを、
ここまで世界の様々な国に知らしめたのは何と言っても
先年なくなった偉大なギタリスト、パコデルシアの功績が大きいです。
若い頃からすでにスペイン国内で認められていた彼が、
そこに立ち止まらずにアメリカへ渡って挑戦をしていなかったら、
今のフラメンコは全く違ったものになっていたはずです。
しかも、さらにパコが自分のバンドに
カホン(ペルーのパーカッション)を取り入れたのがキッカケで、
今ではカホンはフラメンコになくてはならない楽器になりました。
地域や街によってはその地区ごとに大切に守っている表現があるフラメンコ。
そんな伝統的に受け継がれていくフラメンコがある一方で、
その壁を強烈な個人が変えていき、
それを受け入れながら時代とともにどんどん変化していくフラメンコ。
この両面性があるからこそフラメンコが進化し続けながらも、
フラメンコであり続けてこんなにも魅力的な理由があるんだと思います。
自分の好きなフラメンコに出会ってくださいね。
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