ブレリアの魔力…世界最速のフラメンコの魅力

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世界最速、絶対不可能?!

なんて魅力的なブレリアの魔力。

いきなり質問です。

世界一速い舞踊曲』って何だと思いますか?

アフリカの部族のダンスとか、インディアンとか、
自分はそうゆう感じかな?なんて思ってたんですが、、

実は、何を隠そうフラメンコの『Bulería ブレリア』という曲なんです!

おおおーっ!!!

 

今日はそのブレリアについて書いていきます!

フラメンコをやってる人なら、

「たしかにそうだろうなぁ。実際、速いよね」

なんて思うかもしれませんね?

確かに、歌であれ、踊りであれ、
ギターであれ『ブレリア』っていうのは、
他の曲よりダントツに難しいしそのポイントが『速度』にあるのは間違いないんですが、、、

でも、ちょっと待ってください!

初めてブレリアをあなたが観た時にそこまで「速い!!」って印象でしたか?

思い返すと、自分が初めてブレリアを聴いた時の記憶は、とにかく

『何拍子か良くわからないリズムでうまく乗れないんだけど、
とにかくカッコよくてドキドキする感じ』

でした。

正直言って、スピードがどうだったかという記憶がないんですね。

まぁ自分の場合、基本的な記憶力にも問題があるんですけど、、、(~_~;)

でも、それからいろいろなブレリアを聴いたり、
自分で歌ったりするようになって気づいたことがあります。

ノリノリで演奏がすごく迫ってくるのに、実は意外とゆっくりだったり、
逆にすごくゆったりした気分で聴けるのに、録音を後で聴くとかなりのテンポだったり、、、

上手い人が演奏すればするほどそれがはっきりしていて、
速いのかゆっくりなのか良くわからないけど、
ただ居ても立っても居られないようなワクワク感がある。

本当に魔法にかかったような感覚になるんです!!

なんででしょう????

それは『リズムの遊び方』にあるんです!

彼らは 『コンパスという器』の中にいろんな音やリズムを入れて遊んでるんです。

そしてたまにグサりと刺さる言葉なんかを散りばめながら、、
興奮してしまうようなブレリアをよく聴くと、
彼らが感じているリズムは物凄く細かかったりします。

ここで言う『細かさ』と言うのは、『繊細さ』や『密度の濃さ』とも言えます。

曲の成り立ちとリズム

さて、そのリズムと曲の成り立ちも一緒に説明しましょう。

まずブレリアの曲の成り立ちは、
他のフラメンコの曲と同じではっきりしないところも多く、

別の記事で紹介した「アレグリアス」から発展したとする説や、
ソレア」の締めの部分から派生したなど諸説あります。

リズムは3拍子系なことは間違いないんですが、文章で書くとかなり難しくて、
リズムの単位 (コンパス) は『12拍を1周期=1コンパス』とする場合もあれば、
その半分の『6拍を1周期』とする時もあります。

この6拍1周期の事を、
スペイン語の《 半分 》=《 Medio メディオ 》 からとって『メディオ コンパス』と呼びます。

そして、このコンパスを2拍子と3拍子を組み合わせて作っていきます。

これだけでもまぁまぁややこしいですが、
そこに即興の遊びやアレンジが入ってくると慣れない人からするともう訳がわかりません。

ただこのリズム、ただ無闇に難しいわけではなく、
老若男女、誰でも楽しめる鍵があります!!!!

それはまた別に機械に。 隠し立てはしませんよー ( ^ω^ )

種類

さて、アンダルシアにはこのブレリアが有名な街が
いくつかあってそれぞれリズムのノリが違います。

中でも圧倒的に有名なのは、シェリー酒や、
アンダルシア馬、F1なんかのモータースポーツでも知られている

Jerez de la frontera ヘレス・デ・ラ・フロンテーラ

長い名前でしょ? 以下、ヘレスで。

このヘレスは「カンテ(フラメンコの歌)の揺りかご」なんて言われるんですが、
こと『ブレリア』に関しては、もう、ちょっとやそっとの
「揺りかご」じゃ収まらないくらいの量と質を誇っていて、

『俺の街が1番でしょ!何かある?』が基本姿勢のスペイン人たちも珍しく、
「ブレリア? あぁ ブレリアはヘレスだよね。
オッケー それはそうだよ。」と引き下がるほど。

でもすごいのは、ここから。

そのヘレスの中でも、
地区(Barrio バリオ)によってメロディーやノリが違って、

それぞれが自分のバリオの歌に誇りを持ってるんです。

有名なのはSantiago(サンティアゴ)とSan Miguel (サンミゲル)。

ものの数百メートルしか離れていないこの2つのバリオが
背負っている(?)看板は、フラメンコの世界ではとても大きい。

聞いた話では、サンティアゴのフラメンコの人がサンミゲルに遊びに行って帰ると、
「おい、お前!あっち(サンミゲル)に行ってたらしいじゃないか?俺らを捨てるのか?」

とか言われるとか。

うん。十分あり得るな。。

それぞれにお互いを意識していて、
要は認め合ってるとも言えるんだけど、ちょっとめんどく臭いですね。

もういいって言われそうだけど、
そんな地区の中でもさらに細かく

『誰々さん家のスタイル』ていうのが出てきて、
家系図が出てきたりするとその中でも「あの爺さんは凄かった」とか
「いや、いまはその孫が、、、、」とか、詳しい人はもう2時間半くらいは語ります。

ちょっと頭の中に、
グーグルマップを思い描いてください。

はじめは「スペイン」→  倍率を上げて「アンダルシア」→

そして地図をグッとアップにして「ヘレス」さらに「サンミゲル」、、、、、

これだけ地区を絞っても、逆に広がって行くブレリアの世界。

それほど、このブレリアの世界が深くて広いっていう証だとも言えますよね。

名前の由来

随分、マニアックな話まで行きましたが、
でもただ『深い』だけなら、ここまで広がらないはず。

そのヒントは名前にありました。

そもそも『Bulería ブレリア』という名前は、
「からかう」という意味の「Burlar」という言葉がその由来だとか。

今でも、街中のバルなんかで飲みながらちょっとした軽口を、
ブレリアにのせて話す人がいます。

他愛もない話だったり、だれかを褒めちぎる内容だったり、
ある時はちょっと嫌味な絡み酒の歌だったり。
しっかり聴かせる、歌い上げるんではなくてあくまで『遊び』なんです。

遊びに「正解」は必要ありません。理屈抜きで没頭してこそ『遊び』ですよね?

だから、

驚くかもしれませんが、歌詞とか分脈は二の次!

これは誇張や例えじゃないんですよ。

ある本に、フラメンコの特徴として
『誤りを屁とも思わない文法構造』と書いてありました。

それを見つけた時は、声を出して笑ってしまいました。

※実際、一般のスペイン人で「フラメンコはくだらない」という人は、
このある種の歌詞の内容の『拙さ』をいう人が多い。

大事なところだから説明すると、
フラメンコの歌詞は決して『稚拙』ではなくて、

短い文章の中で凄く深いことを歌っているのに
文法の時制がめちゃくちゃだったり、そういう『拙さ』を平気でスルーします。

だって正にその通りだから!いや!!本当にそうなんですよ。

人によっては『間違いじゃん』の一言で一刀両断の文法間違い、
発音間違い、言葉の意味さえも彼らにかかれば『どうでもいいこと』なんです。

逆に、フラメンコの人が自分に響かない歌や演奏、踊りを観た時に、
『Bien..pero no me dice nada.』悪くないよ、でも 自分には何も訴えかけてこない。

ってよく言うんですが、この言葉のすごさを自分的に考えると、

『文法、や形式的には何も間違ってないから、世間一般的には批判されるものじゃないんだけど、
《 me 自分には 》何も感じさせなかった』っていう含みなんですね。

外面じゃなく、とにかく『感じている、感じさせる』っていう内面を問われるっていうところ。

自分のような人間にとっては、怖さでもあります。

そんなブレリアの中で、歌詞は

『響きやコンパス(フラメンコのリズム)に絶妙に収まること』が何より優先!

そして『ブレリア』はフラメンコの全曲種の中でそれが一番はっきり分かる曲です。

昔、こんな事がありました。

ある舞台のリハーサル中にブレリアの部分を考えていた時のこと。

曲はアレグリアス。

劇場用に創られたかなりドラマチックな始まり方の構成で、
前半は港町やそこに飛んでいるカモメのことなんかを歌っていました。

曲も後半、ブレリアに差し掛かった時に
そのグループのリーダーだったスペイン人のギタリストが一言。

彼「マコト、このあたりに何か早口言葉をいれてよ。」

自分「えっ? どんなやつ?っていうか、俺の滑舌の悪さ知ってて言う、それ?」

彼「ハハハ。簡単だって。例えばさぁ、、
un pan dos pan tres pan , tres y medio pan pan y medio…
ウンパンドォパントレェパン トレェィメェディオパン パンィメェディオ、、」

訳すと 1つのパン 2つのパン 3つのパン、 3つと半分のパン、パンと半分、、、

自分「う~ん。。。 パッとはできないなぁ、、、」※本番はその日の夜。

彼「OK! なら、日本語でいいよ!!」

自分「え!?日本語???」

彼「できるだろ? 例えばさ、イチパン ニパン サンパン パンハンブン ハンブンパン 、、、、」

自分「す、すげェ。。。」

でもまだ納得がいかず何か考えている彼。そして、、、

彼「マコト!!できたよ! 聴いてくれ。いくよ!
イチパン ニパン サンパン パンハンブン ハンブンパン 
ヤマモリゴハン ト、オカワリクダサイ  !!」

その場のみんな 『OLE!!!!!!!!!!!! オレ!』

日本語でそれができない自分を情けなく思いつつも、
自分もまんまと楽しい気持ちにされてしまった。

心が動いて、その場の全員の顔が笑顔になりました。

これが全て。

発音がどう、歌詞がどう、形が、、、、

全部、関係ないんです。

彼らの頭の中には『ブレリア』の持つ

『ワクワクした、スリリングな、キレの良い』イメージしかなくて、
それを表現することしか考えていないんです。

もちろん、さらに歌詞の意味までバッチリな非の打ち所のない歌もあるけど、
大事なのはそこじゃない。

別に、言葉の使い方、方法、美しさ、
色々なことが『間違いなく』『整っている』ことは決して悪くないんだけれど、
そこを気にし過ぎて『勢い』『楽しむ心』がなくなったら興奮も伝わらない!

リスクも間違いも気にしない、

スリリングな企みがうまく言った時のしてやったりな『OLE!』こそブレリアの醍醐味!

理路整然とした正しさなんてものがなくても、
意味も正しさもほとんど気にしない『魅力的なリズム』って言うすごく原始的な武器で

一気に言葉や文化の壁を飛び越えてしてしまう。

そして人に『楽しさ』を与える。

これこそブレリアの『魔法』としか思えない。